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タメになる読み物

なぜ?がなるほど!に変わる本 ― 知ればなかよし発達障害のお友達


第16回「教員・保護者向け解説 (4)「周知」はなぜ重要か」

発達障害の詳しい成因は未だ解明されていません。しかし多くの研究が、脳の認知・感覚機能を司る神経系の障害であることを示唆しています。その中で、特に注目されているのが、「セロトニン」という物質が関わる神経です。セロトニンは、脳神経の中で刺激を伝える役目を持っています。 伝える内容としては、認知、記憶を初めとして睡眠、呼吸、食欲、姿勢、手足の運動、そして不安や恐怖といった情動など、およそ脳のほとんどの働きといってもいいくらい多岐にわたります。場所によって、入る刺激を司ったり、指令をしたり、そして出る刺激をコントロールしたり、と大忙しなのです。

 
セロトニン神経系は、生まれたあとに非常な勢いで発達していくことが知られています。赤ちゃんに睡眠のリズムがつき、首が据わり、はいはいができて歩き出し、言葉を操って、そしていつか認知の機能が備わっていく・・・・という発達の様々な過程の中には、実はセロトニン神経の発達そのものである、という部分も多くあるのです。

ですから当然発達障害のある子どもでは、セロトニン神経系の発達がうまく行っていないことが多いのですが、実は、セロトニン不足はうつ病の原因であることも知られているくらい、セロトニン神経と不安のコントロールは密接に関係しています。ということは、発達障害のある子どもにおいては、まず例外なく不安感のコントロールがうまく行かないのです。

 
新しい場所に連れてこられたり、自分の考えていた順番と違う行動をさせられたりすると、

だれでも不安になりますが、この「不安」という刺激をセロトニン神経はうまく伝えて、「大丈夫」という安心に変えてくれます。この働きがうまくいかない発達障害児は、しばしばパニックに陥ります。また、とても強いこだわりをみせたり、繰り返し同じ行動をしないと気がすまなかったりするのも、不安がうまく処理できていないことからくる症状と考えられます。つまり、人一倍不安を感じやすく、それを処理しにくいのが発達障害のある子どもである、と考えられるのです。

 
そんな子どもが、小学校高学年になり、友達との会話にずれが出てきたらどうでしょうか。

自分がうまく会話に入れない、皆と同じになりたい、同じにしたいと思うのにうまく対応できない、これは大きな不安になります。その不安が、友達や先生から「変な奴」「気持ち悪い」「変わっている」「まじめにやれ」といわれることでどんどん大きくなっていきますが、セロトニン神経がうまく働かない脳ではその巨大な不安を処理しきれません。処理しきれない不安は脳の機能を狂わせ、身体・精神症状が出てくる場合もあります。例えば、パニック障害、強迫性障害、社会不安障害、摂食障害、そしてうつ病や行為障害などの精神障害や、自律神経失調症などの心身症です。これを二次障害と呼び、発達障害児の将来像に影を落としてしまう要因になります。

 
もちろん二次障害としての精神障害に対する薬物治療もありますが、特効薬ではありません。一番有効なのは、周りの人と同じようにはいかないことを、「それでいい」「そのままでいい」「大丈夫」と本人も、本人をとりまく周りの人々も一様に考えられること、声をかけてあげられることなのです。それによって本人の「皆と同じにならなければ」という不安とあせりは消失します。

だからこそ、「周知」そして「告知」は、この大きな不安からくる二次障害を予防し、「自分は自分で大丈夫」と自他共に認めることができるための大変有効な手段なのです。

 
このことこそが、発達障害のある子どもたちの脳が一番良い方向に発達していくために一番大切な環境要因だと私は考えます。不安が取り除かれた環境の中で、自分が大丈夫と思える子どもは、どんどん「できなかった」ことができるようになっていくのです。そして成人期に入ったときには、たとえば本書の中で紹介している「犬が死んでしまったとき」には回りの人と同じように涙を流して泣けるようになるし、辛いカレーだと思っても「ちょっと辛いけどおいしいよ」と伝えることができるようになるのです。